前史〜妻国との同盟締結(結婚)まで〜

入籍の日取りは半年後、式の日取りは1年後、両家顔合わせの段取りも進んでいった。二人とも、入籍が待ち遠しかった。

 

一生することはない、と思っていたプロポーズもできた。もちろん妻の返事はOK。とても喜んでくれた。

 

幸せの絶頂だった。ささいな違和感などどうでもよかった。

 

ささいな違和感、とはなにか。それは妻と義母の関係だった。なにやら、頻繁にLINEや電話をしているようだった。妻は母子家庭で、母親とはいわゆる友達親子だった。私と出会う前は、毎週末実家に帰って、二人で遊びに行き、なんでも言い合う仲で、義母のデートにも、ついていくらしい。当然私のこともつつぬけで、私が妻の乳がでかいおもってることまで義母にバレているし、セックスの相性がよいという話までしているらしい。非常に気恥ずかしいが仲が良いのはいいことだ、と思っていた。

 

ところがちょっとした事件が起きた。婚前旅行を計画していたのだが、出発日と台風が重なった日があった。その日は両者共に仕事であった為、仕事終わりに、決行か中止か話し合おうということになった。しかし、それを待たずに、義母から妻に絶対に行くなとLINEが入った。

義母から言われれば、議論の余地はない。しかし、2人で話し合うべきことを義母に先に決められた、というわだかまりが私の中にはあった。思えばこれが苦難のはじまりだった。

 

義母と何回か会い、私の実家にも招待し、先立つ貯金の問題はちくりと言われながらも、お互いに安定した職業で、結婚の許しはすぐに出た。

 

ところで妻はかねてから夢があるといっていた。それは母親になること。はやく子どもが欲しい、今すぐでもいいとのことだった。私も妻がそういうなら大歓迎だった。婚約も済んだし、半年後には入籍という安心感もあった。いよいよやりまくった。そんな折に妊娠が発覚した。

 

子どもができる。想像したこともなかった。愛する妻が子どもを身ごもってくれた。LINEが入ったとき、嬉しすぎてどう反応してよいか分からなかった覚えがある。今でもどう返したか、覚えていない。その日は仕事だった為、帰ってからこれからのことを話そう、どう親に報告するか、考えないとね、とお互いに電話で了解しあった。週末で次の日から連休だったが、式場見学の予定も入っていた為、その話も考えないといけないな、と思っていた。なによりこれからの話ができることが嬉しかった。

 

ところが仕事が終わりに近づいた頃、LINEが入った。やっぱり実家に帰ってよいか、とのこと。不安もあったんだろう。帰ってよいか、と聞いている電話口から、電車の発着音が聞こえてきた。既に駅にいた。了解するしかなかった。

 

内心悔しさでいっぱいであった。初めて子どもが出来たその日に、今後のことを話す相手が私ではない。しかも、先に報告されてしまったからには、私も妻の実家に出向かざるを得ない。仕事終わりに、妻の実家に行き、順番が前後したことの謝罪と、責任は必ずとるということを伝えた。

 

この時、内心妻は私と帰ってくれると期待していた。しかし義母曰く、娘は連休中こっちにゆっくりさせるとのこと。妻もそのつもりだった。2人でこれからのことを話そう、2人で報告しよう。それが霧散していった。傷心で帰る私をやけににこやかに見送る妻が恨めしかった。実家が安らぐのなら仕方ない、自分に言い聞かせるが、1人取り残された無力感と孤独感に押し潰されそうだった。様子のおかしい私に気づいて、妻が電話をかけてきた。押し込めていた感情が爆発した。なぜ先に実家に帰ったのか。今の私は無力感でいっぱいだと。

 

妻の言い分はこうだった。

妊娠で混乱したのもそうだが、仕事の悩みが募っていて辛かった。同じ仕事をしている母親に話を聞いてもらいたかった。それと、私と出会ってから、今まで母親と遊んでいた時間が全て私に向いて、そろそろ1度会っておかなければと思った。でも、妊娠の話を私としていないことには負い目があるから、明日迎えにきて欲しいと。

 

了解して後日迎えにいき、道中気持ちを吐き出した。妻も謝ってくれた。

家に帰ると、義母から妻にLINEが入った。実家に帰っておきながら、やっぱり私の元に帰るというのはなにごとか、と。聞けば連休中のディナーの予約をしていたらしい。勝手にしなさい、といわれた妻が泣き出した。実家も私も大事にしたい。でもどうすればいいのか、と。

 

泣きだす妻に、かねてから思っていたことを伝えた。親離れ、子離れができていないのでは。1度、私の親に相談してみればどうかと提案した。あなたの、もうひとりのお母さんになるんだから、と。私の母親は、もっと私を頼りなさいと妻に伝えてくれた。妻も納得したように見えたが、ディナーを予約してもらった手前、やはり今日は実家に戻るという妻に若干の違和感を覚えながら、十分悩んで疲れた妻を思いやって、了解した。ところが、義母から帰らなくてよいといわれたらしい。結局連休は2人で過ごすことになった。

 

それから、妊娠が発覚したことで、入籍を早めることになった。婚約は済んでいるし、両家の反対もない為、滞りなく婚姻届を提出した。私はめでたく夫となり、妻はめでたく妻となった。